zkTLSについての考察と期待する理由

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ここ数ヶ月、zkTLSについて研究を進めています。バンコクで開催されたDEVCONでも、多くの参加者がzkTLSについて言及していました。サイドイベントとして行われたVLayerのMeetupでは、創設者の@zkMarek氏が「Verifiable Summer」の到来について熱弁していました。彼は、さまざまなウェブデータが信頼を必要とせずに第三者に証明可能となり、DeFi SummerやNFT Summerのようなブームが起きると予測しています。私もこの予測に概ね同意しています。

この記事では、私がzkTLSにどのような期待を寄せているかを詳しく説明します。

zkTLSとは?

以前、『zkTLS技術の解説とETH Tokyoハッカソン参加レポート』でzkTLSの技術について説明しましたが、ここでもう一度簡単に整理します。

  • TLS通信は、ウェブサーバーからユーザーのクライアントにセキュアに情報を送信するための一般的な技術です。
  • zkTLSでは、ユーザーがクライアント側でゼロ知識証明技術を使用して、「このサーバーからこのデータを受け取った」という証明(Proof)を作成します。
  • このProofはオフチェーンでもオンチェーンでも検証可能であり、データをポータブルにすることができます。
  • この証明を作成する際には、ウェブサービス側の承認を必要としません。
  • ユーザーは、証明したいデータのみを提出することができ、必要以上の個人情報などを提供する必要がありません。さらに、閾値証明を利用することで、「具体的な数値は明かさずに、〇〇以上であること」を証明することも可能です。

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zkTLSのユースケース考察

次に、zkTLS技術がどのようなユースケースに当てはまるのかを整理してみました。

方向性

  • 他サービス内のプライベートなデータを利用する
    ユーザーが他のサービスで保持しているプライベートデータを、安全かつプライバシーを保護しながら活用できます。
    • 競合サービスのデータを利用する
      MNPの乗り換えキャンペーンのように、競合他社の顧客をターゲットにしたマーケティング施策が可能になります。
    • 関連サービスのデータを利用する
      新規ユーザーの獲得や既存ユーザーの理解を深めるために、関連サービスからのデータを効果的に活用します。
  • 安価なオラクルとしての利用
    • オンチェーンのプロダクトでオフチェーンのデータを必要とする場合
      オラクルが提供できないデータや、オラクルよりも安価に提供されるデータを利用できます。データがパブリック化プライベートかは問いません。
    • 具体例: 予測市場で「特定のYouTuberの登録者が1万人以上になるか」を判定する際に、zkTLSを用いてデータを取得・証明します。
  • ユーザーが必要以上の個人情報を渡したくない/企業が必要以上の個人情報を保持したくない
    • 資産に関わる情報: 詳細な金額を明かさずに、一定以上の資産を保有していることを証明できます。
    • 健康に関わる情報: 個人の医療データを公開せずに、健康状態が良好であることを証明できます。
    • 住所情報: 具体的な住所を明かさずに、「東京都民であること」など特定の条件のみを証明できます。

誰が採用するのか?

  • オンチェーンのプロダクト
    DeFiやNFT、予測市場などの既存のオンチェーンプロダクトが、zkTLSの採用を始めるでしょう。マーケティングに活用することも可能ですし、これまで実現できなかった新しいサービスが生まれる可能性もあります。具体的なサービス例については、別の記事で詳しくまとめます。
  • 中小企業や個人事業主
    大企業が他サービス内のデータを持ち込む場合、訴訟リスクやコンプライアンス上の検討に時間を要する可能性があります。一方、大企業とのAPI連携が難しい小規模事業者や個人は、これらの課題が比較的少なく、zkTLSを採用しやすいと考えられます。
    • 具体例: アパレルや物販など、多数の小規模事業者が参入する市場で、「特定のサービスのユーザーだけが購入できる限定商品」を勝手に提供する。
  • 大企業
    • 大企業は、他社からデータを取得するにあたって、シンプルなAPI連携を依頼して交渉すれば実現できる可能性があります。また前述の通り訴訟やコンプライアンスの懸念があるため、zkTLSの本格的な採用は消極的なのではと予想します。
    • 必要以上の個人情報を保持しないという大義名分が、zkTLS採用の鍵となるかもしれません。
    • 自社のデータが他社からデータリソースとして無断で利用される現実に対抗するために、大企業もzkTLSと向き合う必要性が出てくるでしょう。

zkTLSが業界に与える影響と期待

最後に、私が現在の(特に日本の)web3スペースにどのような問題と閉塞感を感じているか、そしてzkTLSがどのように解決の糸口になるかについて触れたいと思います。

  • 現状の課題
    • ステーブルコインや予測市場などの一部ユースケースを除けば、ブロックチェーンを活用して現実の課題を解決しているプロダクトはほとんど存在しません。
  • Why Blockchain?
    • 将来的にはブロックチェーンの採用がスタンダードになる可能性はありますが、現状のUXや運用コストを考えると、「なぜブロックチェーンなのか?」という問いに事業者側が答える必要が、まだあると思います。
  • 先細り感
    • 「Why Blockchain?」に明確な答えを持たず、コンサルらと共に実証実験を始めた大企業が、期待した効果を得られずサービスを終了するケースが増えてきました。成功例が出ないため、後続の企業が減少している印象です。
    • 特に、通貨発行が制限されている日本では課題が顕著です。
  • web3ネイティブ企業の課題
    • 既存のweb2サービスが既に便利でネットワーク効果が強く、多くの人にとって乗り換える動機が不足しています。
    • 既存のweb2サービスと連携したいと考えても、説得材料がありません。中央集権的なシステムで成功しているサービス側に分散的なシステムに乗り換えるインセンティブがないからです。
    • オンチェーンのデータは限られており、企業が取れる施策も限定的です。
  • zkTLSの可能性
    • zkTLSがこのデータ不足の問題を解決する可能性が大いにあると考えています。
    • zkTLS単体またはzkTLS + オンチェーンで、今まで示せなかったユーザーにとって明確なメリットを提示できる可能性があります。(個人的にはここを考える余地が出てきたのが、私がNFTの登場を観測した2019年と同じようで楽しいです)
    • zkTLSを活用したサービスが、既存のweb2の成功企業に対する外圧として作用し始め、自己主権型のデータ管理が加速すると考えています。


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About ponta

2019年からEthereumを中心にDapp開発に従事。スキーとNBAとTWICEが好き。

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